『教職実践演習』授業活用例
本書は、「教職実践演習」のテキストです。本書には各章末に、その章の理解を深め、教師となったときの実践を振り返る視点となるよう「演習課題」を、学びをさらに深め現場での⼿助けとなるよう「問題解決の案内」を掲載しています。
この「授業活⽤例」では、さらに学⽣⾃らが学び、発⾒し、理解を深めることができるよう、「カウンセリング模擬体験」や「模擬授業」など、より実践的な授業例を紹介します。学⽣が能動的に授業に関わることで、学習の理解も深まり、協調性、コミュニケーション能⼒などが⾼まることも期待できます。また、学⽣の学習状況に合わせた柔軟な授業スタイルを作ることもできます。
教師になってからも、ずっと⼿元に置きたい書籍になるよう願い編集しております。ぜひ下記の2つの「授業活⽤例」をご覧頂き、授業の参考にご利⽤下さい。
※埼玉学園大学 人間学部 教授 梅澤 実
『教職実践演習』「第2章 子ども理解の方法と実際」を学習した後、
以下の流れで、カウンセリング模擬体験を取り入れてみましょう。
2人1組になって、カウンセリング模擬体験をします。教師役と子ども役に分かれます。
教師役には、教員が子どもの様子を書いたもの(②)を渡します。子ども役には、教師役に配ったものにプラスして、その子が現在悩んでいることを書いたもの(②)を渡します。
子ども役は、その子の悩みをとらえたら、教師役の問いかけに答えていきます。ただし、子どもはその悩みを明確に言葉にできるわけではありませんし、簡単には話してくれません。教師役の問いかけで、話せる心になったら話すというスタンスでのぞんでみましょう。
教師役は、悩みを聞いたら、これからどうしたらよいかについてのアドバイスもしてください。
〇 小学校5年生女子A さん(12 月頃)
大変元気がよく、何事にも意欲的に取り組んでいる。学習面でも自ら挙手し、発言することが多い。友人関係は友達が多い方とは言えないが、仲のよい友達が数人おり、休み時間や放課後はその友達を中心におしゃべりを楽しんでいる。
しかし、最近いつものような元気が見られず、学習面で忘れ物が多くなっており、友達とのおしゃべりも少なくなっている。
母親から私立中学受験を進められ、もっと勉強することや、塾にも行くように言われている。しかし、本人は、私立中学受験は望んでおらず、学級の友達と一緒に近くの公立中
学に行きたいと思っている。また、塾での勉強も思ったように進まず、自分の学力にも自信をなくしつつある。
「子ども役の人は、教師役の人に、どんな言葉がけのときに、自分は悩みを話したくなったかを伝えてあげてください」の指示で、2人で話し合います。教師役の学生に、自分の話し方のよかった点を意識させます。また、教師役へのアドバイスとして、子ども役はどのような点で納得できたか、今後どうしようと考えているかも伝えてください。
〇 小学校4年生男子B さん(9月頃)
4年生らしい快活さがあり、休み時間や放課後は友達とボール遊びを行っている。やさしさもあり、友達からも好かれている。1学期は、授業中よく発言し、グループでの話し合いも、よく発言していた。しかし、ここ最近どの授業も元気がない。何かに悩んでいるように感じられる。学習にも集中できていない。
教師の出す問題を解くことに対して興味をもっていたし、問題を解けたことでの心地よさも感じていた。しかし、最近、教師が出す問題を解いたりすることが一方的にやらされている感じがし、ほめられて喜んでいた自分に何となく疑問を感じ、勉強とは何かわからなくなっている。そんな自分をどうすればよいかわからないでいる。
1回目の話し合い同様、2人で話し合う。
〇 小学校6年生男子Cさん(5月頃)
口数も少なく、自分のことを上手に話せない。人のことを思いやる心はあり、掃除や委員会活動は一生懸命やる。しかし、最近しずんでいる。何かに悩んでいるようである。学習にも集中できない。グループでの活動になると特にそれが現れているように見られる。等
仲のよかった友達から「自分勝手だ」と言われたことがきっかけで、友人関係を維持する方法がわからなくなっている。自分がすることが、相手から自分勝手だと見られていないかと気になり、友達と一緒に何かをすることに対して不安を抱いている。今までのような友達づきあいをしたいと思っているが、どうすればよいかわからない。等
カウンセリングの模擬体験を通して、⼦どもとの相談を体験的に学ぶことができます。
実際にいつもと違う⼦どもの様⼦に気づき、その悩みを聞き出すことはとてもむずかしいことですので、この模擬体験はきっと役⽴つはずです。それと同時に学⽣同⼠で学びの理
解を深め、今後の授業における話し合い活動に役⽴つ姿勢を⾝につけることもできます。
※帝京科学大学 教育人間科学部 教授 河崎雅人
『教職実践演習』を⽤いて学⽣に模擬授業を⾏ってもらいます。
まず、⽬次からだれがどの章の授業をするか決め、担当する章が決まれば、⼩学校での授業のように、⽬標、観点別の⽬標、評価規準、評価⽅法、評価基準を考えてもらいます。
学⽣は、授業⽇の1週間前までに指導案を作成し、提出します。教員は「この指導案で授業をしてよい」という形になるまで、作成した指導案及び資料について指導をします。実際の授業では、教員も受講者として参加するとともに、アドバイスや補いをしていきます。
最後は、学⽣同⼠で授業に対する評価をするとともに、教員からも授業に対するコメントを伝えます。
⼀⼈が⼀つの章を担当することから、章の内容について⼗分に理解する必要があります。話し合いが中⼼になる場合が多いので、どのように話し合いを進めていくか、授業者⾃⾝が⾃分の考えを持つ必要があります。このようなことから担当した内容に関する理解が深まります。
また、国語や算数などの実習で経験した教科と違い、学習指導要領の解説書や教師⽤の指導書もない中で、⽬標を⽴てることから指導案の作成までの授業づくりのすべての過程を独⼒で⾏うことにより、授業を構成する⼒が⾝につきます。
さらに、実際の授業は話し合いが中⼼となりますが、形式的な話し合いではなく、学⽣の実習での学びや興味・関⼼を基に、教師としての必要な質の⾼い学びを引き出さねばならず、主体的な学びで求められる授業⼒が⾝につきます。